2011 1231 <出雲に帰省する人のフォトグラフに> 八雲立ついづもなる地のつごもりの脂燭(しそく)の夕(ゆふ)ぞ神やどるらむ 1227 <雪国訪う友の歌に返歌一首> らいてうの背に雪国をたづねゆく君が瞼裏(まなうら)を銀幕と観む 1222・夜 星屑をけづりて六花散りたまふ月齢二十七の月やいづこに 1222・宵 残照の清らけきかな冬至の天 (下の句無し) 1215 樹にありては高輝度ラムプ地に敷かば眠き絨毯ふしぎのいてふ 1210 <皆既月食> あゝ月を 独り占めにぞ抱きにける吾が立つテラの一夜(ひとよ)いぢらし 1206 <落葉を踏みて寂しき散歩> ほつほつと冬は地燃やす桜かな花霞こそとほき夢なれ 凛としてさびしからずや冬薔薇(せうび)すつくと立ちてしづく零さじ 1205 <滝写せる友のフォトグラフに> 深山(みやま)にも隠しおほせぬ弥(いや)あをき光たまへる神のみ柱 1128 <石巻〜女川訪問> 紅葉(もみぢ)抱くしづかの水面(みなも)過ぎゆけば荒野あらはるしづかの荒野 1120 薄明や簾の奥の金の月 (下の句無し) 1119 降りそそぐ いにしへの墨 神さびて 霧だつ峰を きはだたせ 或ゐはぼかし 雲の果て 鳥や凍らむ 天の果て 月も凍らむ 暁も 夕暮れもなく 薄墨に もみぢ流るる あきさめぬ 長雨(ながめ)とぞいふ 霜月の雨 1113 豆苗や育ちそだちていづれこのいやしき猿に喰らはれるのみ 1108 さざんかは因果倶時とや咲きそむるそばより雪の如く散るなり 1104 ぬばたまの闇も滴る星月夜濡れたる芝の清きつめたさ 1029 照柿を潰したる日は燃え墜ちてほのかなる熱ともす土かな 柿の木のたわわたわわと笑ひつつ (下の句無し) 1023 水の音(みづのと)は悠久なりやうぢがはのすすぐ錦繍平安の夢 1011 君を待つおほきくまろき文旦のみづみづしきぞこよひ望月 1010 列車ゆれあらがふがごと君のそのマタイの福音なぞる指さき 1009 <十三夜> 天鵞絨(びろうど)の雲もて磨くひさかたの天ゆく竜のいだくみ鏡 <飛鳥にて> まほろばのやまとなる海照り映えてこがねの波の寄する音ぞきく 0910 <西播磨天文台> しののめやいくへの御簾を染めわけて天照出でそむる鴇いろ 0903 澱深き吾が心根の斯くあれとうとふをろかや無垢の白玉 0830 夕日をば振り仰ぐまじ背は燃えて腹は冷えつつさらば八月 0813 盂蘭盆会鳥のかたちのらくがんの粉雪のごとほろほろ崩る 0803 水鏡おしろい花のかんばせの燃ゆる影みる夕驟雨かな 0803 夏雲の凝れるもよふをたとへむとソフトクリヰムを指せる陳腐よ 0803 やは肌のうぶ毛もゆかし蜜桃の甘露に潜むその冷ややかさ 0712 病み籠りひとのうはさに消ゆる虹の寝覚めてぞみる夢のかけ橋 0711 いだかれて花火きき初めんをさなごの星壊れぬと泣きにけるかな 0729 あかねさすむらさきにほふ鉄線花その強蔦(こはづた)のゑにしたゆまず 0723 あいすくりん融けたる白き乳の川下弦の月の匙のひとひら 0707 とりどりの短冊流る七夕(しちゆう)や涙の川の綾なせるとも 0702 半夏生かぎろひたてば道ふりて早駆けて来むいなつるびかな 夕立ちぬ鈴生る頭(こうべ)垂れこめて行水召しませ千万(ちよろず)の瑞穂 0629 けがれみのみなづきはらえ夏はらえ形代(かたしろ)がごとわれも去(い)ぬべし 0527 白明や星の眼をした額あぢさゐ昼夜の彩を交はらせつつ 0626 <妄想短歌> 狭き屋に蚊遣りの煙立ち篭めて老いたる猫のしわぶくを聞く 0624 うすやみに金剛石の黙しゐてひそやけく散るすなごたふとし 0623 蠅追ひて籠れる熱を咲きみだす夜は下天の澱のごとくに <友人の妄想に唱和したる妄想艶唄2首> 1.夏越しの大祓とて川あかりきこしめすてふ鱧のやは肌 2.瓜割りて滴るつゆのほとほとと膝濡らしてぞ夜は更けゆく 0622 苗青き田を飛び去りて白鷺の山を抱ける雲となりぬる 0614 君や知るはるかの西の夕立ちて梔子の香の流れたるかと 月出づ灼土の熱のやはらぎてすゑたる枇杷の肉ぞかぐはし 0606 みなつきの明けの五つにほとばしる水道管にぬるまりし夢 ぬるまりし雨を幾たりかぶれどもまどろみの繭飴のごときに 0530 <奈良の知人をたづねて一首> 雨風にうたれて萌えよしきしまのやまとの峰に生ふるさみどり 0523 <雨、山藤を愛でたる友の呟きに唱和> 青紫(せいし)なるそのくわんばせを泣きぬれて山殺すなり藤の花蔓 0512 <友人の散文的呟きを本歌どりして一首、続けて2首> 1.風孕み 水のをんなのかたちしてふわり笑へる 天水幕哉 2.天水の紗の細か目を漏れ出でて星のしづくぞ闇に滴る 3.密やかに星のしづくを飲み干して竜と昇れや泥川の鯉 04×× <大阪を離れる友を送る> らんまんのよものさくらの桜雲なにはのゆめに幕な引きそ 03×× 星霜(としつき)の矢のごと過ぎて桜花彼方の驟雨の如くはらはら 夜闇にも消えなむ吾が身あぢきなく唯ほのかなり沈丁花の香 0225 <小春日和に昨年4月を思い出し> 桜雲見逃したりし卯月かな天飛ぶ春の袖や触れけむ 0201 いかづちや二月の地(つち)にましまして芽吹かせ咲かせ実らせたまへ 0129 <友人の雀よみたる歌に返歌一首> たくなはのながき旅路をゆく汽車のしづかをやぶるその群雀 0127〜28 <東京〜落花生の国への出張にて> 1.隧道(とんねる)をひとつ抜けるに五%(パー)ずつスミを増したり冬の夕闇 2.うちひさす都の朝の下町の豆腐屋の湯気身に纏いつつ 3.その魂の化生となりて都鳥いづくの海にぞいまかへるらむ 0127 <東にて、懐かしき友と過ごすトラットリアの夜に> 1.弓手には フォーク持つなり 馬手には ナイフたづさへ 外つ国の 慣れぬ道具に 刻む音の musicaと呼ばむ 猪肉に 野菜に豆に パンに水 命の糧を 切り分けて duetto奏でむ きみとわれの手 2.みくしげのふたよなきよにおもほへばきみのその手にそっとふれまし 0124 湯たんぽに毛皮巻いたる妄想の猫をいだいて独りねむれず 0108 <多忙すぎて合流できず> 1.あらたまのつきの無き夜のひとりよにいやほろ苦く喰むは七草 2.あづさゆみ春の息吹きも聞かぬまま朝もななくさ夜も七草 0106 あたたかき鴨なん喰へど悪寒止まず風邪ふりだしの如く候 |