2012

0622
やまももの実を散りばめてタイフーン亜細亜の青ぞ運び来たれり


0618
<海に、>
打ち寄するみぎわ連なりしゃりしゃりと白き虚ろの貝の舎利かな

イワシの死振り向けばはやあわに消ゆグラン・マーレの祝福の沫(あわ)

あらぶれる豊かなる海どうどうと十万年の身は引き裂かれ


0612
<洞窟探検に出掛けたる友の思はず石柱にキッスせりとゐふ報告を聞ゐて>
白亜なるつらら石こそ冷たけれ生ける白亜ぞ涙干ぬ其は

千年の涙に濡らす鍾乳にくちづけたまふ君が横顔

たらちねのははなるうろのおほひなる乳房の垂らす千年の乳


0602

てふてふは彼岸を知るや音もせであざみの棘のあなたこなたへ

ボタニカのかぎろひだちて白昼夢猫の喉にぞ宿りぬるべし

茫漠の湿気のうちの眩暈のみチランヂアに似てかさかさと鳴り


0528
<ハニー・ビーに>
麦秋の待ち遠しきや蜂のうた金のねむりのつむぐその午後

うたかたははちみつににてゆるゆるとみとほせるよなみとほせぬよな

<友の芍薬詠みし歌に返歌>
大輪に威風たたへりパエオニアラクティフロラの一片の落つ


0525
雨越へて夏きたりなば爛熟のブーゲンビレア融かすまぼろし

さらば五月熱き地表の濡れたればもう楽園の花が待ってる


0521
<金環日蝕>
あが身をば灰に帰すとも日輪に焦がれし月の須臾の抱擁


0517
<憧夏>
草刈るやあおき息吹のおし寄する農道ゆかば夏雲の峰


0511
<友の雨雲を竜に例えたる呟きに唱和して、二首>
春の果てあめなる竜の垂れ篭めていまひとたびの氷雨呼ぶらし

つつじ燃ゆ 飛竜の鱗(りん)のとどろきに雹ふらるとて消えぬその火を


0408
ちぎりちぎり蜜吸い鳥の頸ふれば石畳にも星の花ふる


0323
毬のよな冬鳩軒にやどりけりいまだつめたき春霖なりや


0313
花はよし花はうるはしあをによし奈良の入り陽の春のしづけさ


0305
爪先に一斤染(いっこんぞめ)のほのかなるをとめの指に春来たるらし


0224
ハモニカのもの悲しきや夜の梅あかときやみに色は知らねど


0204
<土佐の夜>
灯台のわが身を星に数えむとまたたけどなほ月は去り往く

十三夜あてなる光はろばろといづくにやあるみすまるの珠


0127
うららかの小春の陽ざしとらへむとひらひら蝶の稚児が手のひら


0122
果つるまで恋にこひせよ文椿 みのらぬままに頸の落つとも


0110
<友の、きな粉まぶしたるあべかは餅に月たとへたる歌に、返歌一首>
立待ちを寝待ちて過ぐしあべかはの月は天心はしもかからず
(はし:箸・梯・橋)


0102
<僅か積雪す。"うるはし"の語源についてふと>
はだれ雪滴り受くるびろうどの苔のみどりぞうるはしといふ



0101
< am0:22 昏きうちより初歌 >
未(ま)だとほきあらたまの初日ことほぎていっさう燃ゆる天狼の蒼